大判例

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東京高等裁判所 平成8年(う)908号 判決

被告人 後藤舒弘

〔抄 録〕

所論の検討に先立ち、職権により調査すると、原判決には、以下に述べるとおり、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがあり、原判決は破棄を免れない。

一 原判決は、(罪となるべき事実)の第三として、被告人は、「右のとおり不正に入手した国民健康保険被保険者証及び印鑑等を使用して、金融会社から借入名下に金員を騙取しようと企て、平成七年九月二六日、川崎市宮前区小台一丁目一八番六号株式会社横浜銀行鷺沼支店において、竹内毅名義の普通預金口座を開設した上、同日、横浜市神奈川区三ツ沢西町五番一号キャプテンハウスA―二〇二号の自宅から、フリーダイヤルによる借入金の電話申込受付業務を代行している東京都新宿区高田馬場二丁目一四番二号原田ビル四階日本テレシステム三六五株式会社に電話をかけて、応対した従業員石崎敬子に対し、右竹内本人であるかのように装って金員の借入方を申し込み、行使の目的をもってほしいままに情を知らない石崎をして同社備付けの新規電話受付票兼借入申込書の氏名欄に「竹内毅」、住所欄に「川崎市宮前区鷺沼1―6―1朝日鷺沼マンション604」、申込金額欄に「30万円」などと冒書させて竹内毅作成名義の新規電話受付票兼借入金申込書一通の偽造を遂げ、同日、石崎をしてこれをファックス通信により株式会社アルコ本社を経由して川崎市川崎区駅前本町八番地一の同社川崎支店に送付させ、更に、同日、前記自宅から、前同様竹内本人であるかのように装って右川崎支店に電話して、応対した従業員関根弘之から身分証明の確認を求められるや、前記横浜銀行鷺沼支店発行の竹内毅名義の普通預金総合口座通帳の写し及び同人名義の国民健康保険被保険者証の写しを横浜市神奈川区六角橋三丁目二三番一〇号有限会社ブックスゴトウに設置のファックスにより、前記アルコ川崎支店に送付し、行使の目的をもってほしいままに情を知らない右関根をして同支店備付けの新規顧客カードのお名前欄に「竹内毅」、ご住所欄に「川崎市宮前区鷺沼1―6―1朝日鷺沼マンション604」、ご自宅の電話番号欄に「044―854―6353」などと冒書させて竹内毅作成名義の顧客カード一枚(原庁平成八年押第二号の2)の偽造を遂げ、右関根をしてあたかも右竹内本人からの真正な借入申込みと誤信させ、よって、同月二七日、右関根をして株式会社アルコ川崎支店支店長梅原晴美名義により、川崎市川崎区砂子一丁目一番一七号株式会社横浜銀行川崎支店から前記同銀行鷺沼支店の竹内毅名義の普通預金総合口座に現金二九万九八〇〇円(印紙代差引)を振込入金させてこれを騙取した」との事実を認定し、右事実に関する(法令の適用)として、各有印私文書偽造の点は刑法一五九条一項、その行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項、詐欺の点は同法二四六条一項に該当するなどとするほか、右顧客カード一枚の偽造部分は、同法一九条一項一号、二項により没収の要件を充足するとして、主文において没収の言渡しをしている。

二 しかし、記録及び当審における事実取調べの結果によると、以下の事実を認めることができる。

被告人は、盗んだ国民健康保険被保険者証を使用して、竹内毅に成り済まし、金融業者から金員をだまし取ることを思い立ち、平成七年九月二六日午後三時ころ、前記横浜銀行鷺沼支店に一〇〇〇円を預け入れて竹内毅名義の普通預金総合口座を新規に開設した上、同日午後四時すぎころ、電話帳に記載された金融業者アルコのフリーダイヤルの番号に電話したところ、代行業者の日本テレシステム三六五株式会社の従業員石崎敬子が応対して、同女から氏名、生年月日、住所、借入れ希望金額等を聞かれたので、前記国民健康保険被保険者証を確認して、答えると、「川崎支店で取り扱うので、三〇分位してから川崎支店に電話してください」と指示されたこと、そこで、同日午後五時すぎころ、前記アルコ川崎支店に電話すると、前記関根から、氏名、生年月日、住所、借入れ希望金額等を復唱して、確認を求められたので、「間違いない」と答えたところ、預金通帳と国民健康保険被保険者証の写しをファックスで送付するように指示され、自宅近くの前記ブックスゴトウに設置されたファックスにより右写しを前記アルコ川崎支店に送付したこと、その後、再度前記アルコ川崎支店に電話すると、関根から、ファックスを受け取った旨伝えられるとともに、前記預金口座への振込みは翌日になる旨伝えられたこと、翌二七日、前記川崎支店に電話し、関根から、振込金額は印紙代を差し引いた二九万九八〇〇円であり、午後には前記預金口座に振り込まれる旨教えられ、午後一時すぎころ、前記横浜銀行関内支店で三〇万円をおろしたこと、被告人は、代行業者が介在したことや、前記電話受付票兼借入申込書及び顧客カードが作成されたことは、逮捕後に捜査官に教えられて初めて知ったのであり、関根から後で必要書類を送付するので署名押印して送り返すよう指示され、借入申込書等の書類は後に作成するものと思っていたこと、前記フリーダイヤルによる借入申込みは、前記アルコが電話受付業務を代行会社である前記日本テレシステム三六五株式会社に発注しているものであり、右代行会社の事務員は、客から聴取した内容をそのまま新規電話受付票兼借入申込書の所定事項欄に記入して、ファックスでアルコ本社に送付し、アルコ本社から指示を受けた支店担当者が、電話をかけてきた客について、顧客カードを作成するとともに、所定事項を調査して融資の可否を判断し、適格者と判定した場合に客の銀行口座に振込送金し、その後客の住所あてにカードローン基本契約書及び借入申込書を送付して、所要事項を記入させ、送り返してもらうというものであったこと等の事実が認められる。

三 以上の事実関係によると、被告人は、前記電話受付票兼借入申込書及び顧客カードが作成されたこと自体を全く認識していなかったことが認められ、被告人については、これらの文書の偽造、行使の各罪が成立する余地はなく、有印私文書偽造、同行使の各罪が成立するとした原判決は、事実を誤認したものというべきであり、前記顧客カードの偽造部分が刑法一九条一項一号の犯罪組成物件に該当するとして没収を言い渡した点は法令の適用を誤っており、右事実誤認、法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

そして、原判決は、原判示第三の事実と原判示第一及び第二の各事実とを併せて、刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして一個の刑を言い渡しているので、原判決は全部について破棄を免れない。

よって、控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条、三八二条により、原判決を破棄し、原審は本件を簡易公判手続で審理しているため、本件は自判に適さないので、同法四〇〇条本文により、本件を横浜地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(岡田良雄 大渕敏和 樋口裕晃)

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